和の居住文化の再構築―文化的持続可能性を問う居住実験計画―
和の居住文化の再構築―文化的持続可能性を問う居住実験計画―
【プロフィール】
財団理事・京都造形工芸大学教授・京都大学名誉教授
髙田 光雄(たかだ みつお)
Mitsuo Takada
(Our Foundation Director, Professor of Kyoto Arts and Crafts University, Emeritus Professor of Kyoto University)
京都大学大学院工学研究科修了、京都大学大学院教授を経て現職。住まい・まちづくりに関する実践的研究の第一人者。日本建築学会理事、都市住宅学会会長、大阪府住宅まちづくり審議会会長、大阪市住宅審議会会長を歴任。日本建築学会賞、都市住宅学会賞、日本建築士会連合会賞等受賞多数。
1. はじめに
「実験集合住宅NEXT21」(以下、「NEXT21」)は、『融』33号(2025年)で紹介した通り、大阪ガス株式会社が建設した都市住宅におけるSDGsを先導する近未来型実験集合住宅である(竣工1993年)。そこでは、1994年4月の入居時から現在に至るまで、30年以上にわたって居住実験が実施されてきた。2026年からは、この集合住宅の1住戸「編み替えの家」(インフィル設計:川島範久建築設計事務所、クラディング設計:集工舎建築都市デザイン研究所)で、「和の居住文化の継承・発展」をテーマとする居住実験が行われようとしている。以下では、NEXT21継続改修WG(主査:髙田光雄、委員:加茂みどり、近本智行、清家剛、土井脩史、近角真一、大阪ガス担当者)で行われたこの住戸の計画段階での議論を簡単に紹介して、今後の居住実験を展望してみたい。
2. 都市における「和の住まい」
「和の居住文化」の再構築にあたって、まず、伝統的な「和の住まい」の特徴を明確化しておきたい。都市における「和の住まい」の特徴は、①自然(にわ)との関係、②社会(まち)との関係、③人(住まい手)との関係から説明することができる。
①自然(にわ)との関係:「和の住まい」の第一の特色は、「最大限の風通し」と、内部と外部の中間領域である「環境調整空間」(玄関土間や縁側)の確保にある。これによって、四季ではなく二十四節気や七十二候と言われるようなデリケートな季節感を享受する生活文化が継承されてきた。これは、環境的持続可能性の確保と言い換えることもできる。
②社会(まち)との関係:「和の住まい」の第二の特色は、家の横には家、庭の横には庭を作るという家と庭との「連担」を求める「家と家との関係」や、格子や揚見世(バッタリ床几)を活用して昼夜で軒下空間の利用形態を変える公私の境界のデザインに代表される「家と道との関係」にある。これによって、「異なる価値観の共存」を可能にする生活文化、すなわち、「まち」に住む生活文化が継承されてきた。これは、社会的持続可能性の確保と言い換えることもできる。
③人(住まい手)との関係:「和の住まい」の第三の特色は、家が住まい手に働きかけることによって生まれる「住みごこち」だけでなく、町家の「室礼」などに見られる家と住まい手の相互の働きかけによって実現する「住みごたえ」、その延長にある手入れや増改築による「住みごこち」と「住みごたえ」の継続的実現としての「住みこなし」、さらには、住まい手が入れ替わっても改修などによって最大限の「住みごこち」と「住みごたえ」を取得する「住み継ぎ」の実現などにある。これによって、住まい手が、環境に対して受動的に暮らすのではなく、家やまちの働きかけを受け入れながら能動的にそれらと関わる生活文化が継承されてきた。これは、文化的持続可能性の確保と言い換えることもできる。
3. 住様式論再考
「和の居住文化」の再構築にあたって、上記の「和の住まい」の特徴の整理に加えて、住様式論の再考を試みた。
西山夘三京都大学名誉教授は、『これからのすまい―住様式の話』(相模書房・1947)において、住様式に関する深い考察を行った。とりわけ、「起居様式」については、イスザ(椅子座)とユカザ(床面座)とを対比して、「ユカザ生活の不合理性は、非活動的という點に最も強く現れている」と述べ、「我々は再びそこへイスザの様式を洋服生活或いは洋式生活という形で取戻そうとしている」と指摘した。さらに、「起居様式のユカザからイスザへの改革の行き方」として、①二重生活を完全に清算して「イスザ」を目指す「洋室化」、②「ユカザ」と「イスザ」を併存させ、二重生活を整理存続させる「和洋折衷化」、③「ユカザ」に必要最小限の「イスザ」を持ち込み、「ユカザ」生活の耐え難い窮屈さと非能率、不愉快を避けようとする「和洋混交化」に整理した。その上で、「最も素朴で一見ブザマに見え又調和の失われている様に感じられる第三の行き方が、國民的な住まいの様式の改善方向として最も現實性あり、且つ含蓄のある行き方だと考える」と結論付けた。
第二次世界大戦後の日本の住宅における起居様式は、ほぼ西山の指摘通り、第三の行き方を中心に推移してきた。とはいえ、それによって豊かな生活文化が実現したわけではなかった。この間、和室の椅子座化から洋室の床座化への移行、床座の回帰現象の進行などを明らかにした沢田知子文化女子大学名誉教授は、『ユカ座・イス座』(住まいの図書館出版局・1995)において、「和洋混交」の流れによって、「空間の形式に応じて立ち居ふるまいのあるべき姿を求めるというルール」自体が意味を失ったと述べ、これが今日の「住宅の閉鎖化」の背景ともなっていると指摘している。「和の居住文化の再構築」が必要とされる所以である。
4. 和の居住文化の再構築に向けた居住実験
ここで注目したいのは、前述の西山の著書における近世までのユカザ普及の必然性、すなわち、非活動性の合理性の説明である。そこでは、第一に、歴史的には、武家社会において、動的生活に静的生活を組み込む手段として床座の積極的意義が認められていたことが示されている。第二に、日本の「住居は土間と床との二つの部分の上に形づくられていた」ため、動的生活は土間が分担し、必ずしも床座に不合理が存在したとはいえなかったことが的確に述べられている。西山は、土間が消滅した状況下で動的生活の回復のために第三の行き方の合理性を説いたのである。しかし、動的生活と静的生活の両立が日本の住まいの本質だとすれば、居住水準が向上した現在、床座と椅子座を選択するのではなく、それらの両立も視野に入れる必要があるのではなかろうか。
そこで問題としたいのは、住生活におけるポスチュア(姿勢)の移行可能性である。床と土間によって床座と椅子座が両立した空間では、臥位、平座位、椅座位、立位などの異なるポスチュア間の移行を自由に行うことができ、動的生活と静的生活の両立が可能であった。これに対して、洋室、椅子座の生活では、椅座位と立位の往復となり、立位の生活も家具によって拘束される。臥位への移行は特別の家具を必要とすることになる。
ここで、再評価すべきは、西山には第二の行き方として排除された「和洋折衷化」である。すなわち、居住水準が向上した現代においては、藤井厚二設計「聴竹居」(1928)の試みのように、「小上がり」などの導入によって異なるポスチュア間の移行を自由に行うことができ、動的生活と静的生活の両立が可能となる床座と椅子座の両立を積極的に検討することが必要であると考えられるのである。
以上を踏まえ、NEXT21における「編み替えの家」では、「和の居住文化の再構築」の現代的意義を「文化的持続可能性」の探究として位置付けた上で、「現代に活かす和の住様式」と「自然と親和し、環境に寄与する住まいの技術」を探るための居住実験が期待されている。
以上