吉野での古民家改修と AIR(アルチザン・イン・レジデンス)に向けて
吉野での古民家改修と AIR(アルチザン・イン・レジデンス)に向けて
【プロフィール】
建築設計室Morizo- 代表者
内田 利惠子(うちだ りえこ)
大阪生まれ。建築設計事務所勤務後、2006年建築設計室Morizo-を設立。2015年「器プロジェクト」を発足。
2年間のドイツ滞在を経て日独 UTSUWA「器」projectを展開中。
大阪・関西万博 2025 での出展が終わり、器(UTSUWA)プロジェクトは次のステップへと動き始めている。2015 年に大阪で発足したこのプロジェクトが 10 年間で 3 つの組み立て式和室の開発や日本の手仕事を発信する活動を経て実際の建築での新たな試みをスタートさせた。
私たちは今、奈良県吉野町で古民家を改修している。長らく空き家で、屋根には穴が開き室内に苔(Moos)が自生していたこの物件に Mooshaus(モスハウス)と名前を付けた。改修し始めたのは 2025 年の春。改修を始めると梁や柱、基礎も傷んでいるなど、深刻な状況であることが分かり、構造補強を含め新築に劣らない規模の工事となった。手作業で傷んだ部分の解体工事を進めると、再利用された古材のほぞ穴(木組みの加工)や継ぎ手(部材の接続部分)が沢山見られ、昔は木材をはじめ、材料がいかに貴重だったかを再確認することができた。
改修工事は器プロジェクトのメンバーでもある地元の大工さんに依頼。傷んだ柱や梁の取替や崖地のために傾いた建物を起こす工事を丁寧にしてもらった。屋根、基礎、建具、設備など多岐にわたる専門職の皆さんにも腕を振るって頂いている。解体工事や土壁、タイルなどセルフ工事は友人の協力も得ながら少しずつ進めている。昨年は海外からのインターンの受入れや、器プロジェクトのベルリンメンバーも参加し沢山の人が日本の古民家改修を体験する機会を作ることができた。2026 年 7 月現在おおよその基本的な工事が終わり、ようやく部屋の設備もほぼ整い、宅内での生活ができるようになってきた。
外壁がない箇所やこれから解体するという部分もあり、まだまだやるべきことも多く先は長いが、全てを完成させないところにこのプロジェクトの意味がある。この Mooshaus は 2 拠点生活の場であり、器プロジェクトの次のステップのスタート地点として、手仕事を目指す人のきっかけとなる機会の場でもあるからだ。一般的な工事のように設定した工期と予算の範囲で完結するのではなく、よりこの建物のポテンシャルが活かせるように、改修しながら考えるという方法で設計変更を繰り返しながら進めている。改修で出た廃材を活用し、可能な範囲で素材を使い切る。効率や合理性を第一に考えるのではなく、次の世代や環境へも配慮したモノづくり。それには自然素材とそれを熟知して扱える職人技術が欠かせない。器プロジェクトのコンセプトが実践できる場として Mooshaus を大いに活用しようと考えている。
滞在型手仕事体験講座の試み
2020 年からベルリンでも活動してきた器プロジェクト、日本の手仕事に興味を持つ人が海外にもたくさんいることが分かった。昨年の万博ではドイツ館との共催プログラムで大工、表具、畳といった手仕事の職人メンバーがそれぞれの仕事ややりがいなどを語り、国内外からの来場者の関心を集めた。そして多くの人が木や和紙といった自然素材に触れ、「実際にもっと日本の手仕事に触れてみたい」と感じる人もたくさんいることを実感した。
私たちは今 Berlin のメンバーと共に、日本有数の良材を育てる林業地「吉野」で Mooshaus を使って手仕事体験の機会を創ろうとこの秋の企画を進めている。1 日で完結するワークショップではなく、1 週間ほど吉野に滞在し、林業地や原木市、製材所見学や街歩きも含め、Mooshaus の実際の大工工事体験や、襖、障子といった和室にまつわる手仕事を実践する講座。各専門職のプロを講師とし実際の手仕事を体験できるコースは、募集前にもかかわらずすでに航空券を買ってエントリーを待っている人がいるほど海外の人にとっては興味深いプログラムのようだ。
このワークショップはイベントではなく、私たちが来年から始めようとしている「AIR(アルチザン・イン・レジデンス)」の最初の一歩として実施する。まずは日本の手仕事への関心が高い海外の人をイメージして企画をしているが、ゆくゆくは日本の若い人に手仕事を目指すきっかけを作れたらという思いがある。また国を問わず若い人たちが手仕事に触れ多様なネットワークに育つ新しい入口になることを願っている。
インターネットや AI の利用が当たり前になったこの時代にも必ず必要な手仕事。自然素材の癖を読み、使い切る技術。古民家の改修にはその要素がたくさん詰まっている。ナフサの輸入が滞っても自国で賄える資源を活かしたサスティナブルなモノづくり。本来あったその技術が見直され継承されるきっかけづくりの第一歩。環境意識の面からも今後関心が高まることに期待している。「林業から手仕事まで ―吉野で体験する 5 日間―」の開催が楽しみだ。
内田利惠子 【建築設計室 Morizo-】http://morizo-archi.com/
器プロジェクト:https://utsuwa-project.com/
Mooshaus: https://mooshaus.utsuwa-project.com/