未来の大学とオンライン大学 ―日本初の本格的オンライン大学の挑戦―
未来の大学とオンライン大学 ―日本初の本格的オンライン大学の挑戦―
【プロフィール】
山中 伸一(やまなか しんいち)
東京大学法学部卒業後、文部省(現・文部科学省)に入省。初等中等教育局長、文部科学事務次官を歴任。退官後、外務省駐ブルガリア特命全権大使を務める。2018年6月20日より学校法人角川ドワンゴ学園理事長就任。2022年大学準備法人設立。2024年、学校法人日本財団ドワンゴ学園を設立し、理事長に就任。2025年4月ZEN大学を開学。現在2期目。
話し手:山中伸一 学校法人日本財団ドワンゴ学園 理事長
聞き手:吉野国夫 (一財)大阪地域振興調査会 常務理事
吉野:本日はありがとうございます。
開学から1年、目標入学者数を確保され順調に進んでいるようで良かったですね。ZEN大学の開学に向けての動きは様々なメディアでも取り上げられ、株式会社ドワンゴ創業者川上量生さんという独特のキャラクターを持つ方が「教育ZEN問答」という開学に向けた舞台裏のご本を上梓されたり、その世界では超有名な五反田の「ゲンロンカフェ」で激論を交わされたりして、大いに注目されていました。私たちも未来の大学都市研究を進めている中で3年前から動きを追いかけていました。ZEN大学は従来の日本のオンライン大学の概念を飛び超え、大学全体の世界でも画期的な出来事と思います。
山中:昨年4月に開学して第1期生を迎え、今年4月に第2期生を迎えることができた。入学定員は3,500人、2年目で約7000名が在学している。
これからの社会はAI等のデジタル化した情報が中心にあって、それが経済や社会の中で大きな役割を果たしていく。特にChatGPTなど、AI自身が自分で学び、問いに対して答えを出していく時代になってきた。社会が変わり、経済も変わり、人としてのかかわり方も変わる知能情報社会になる。ZEN大学の卒業生はそういう時代の中で、自分の持っている力を発揮できる力を使える形で社会に出ていってほしいと構想されたものだ。知識を得るだけでなく、その知識をどのように現代社会の中で使うか。それを大学にいる間に身に付けてほしいと考えている。
吉野:知能情報社会学部の1学部のみなのに講義数が多くて驚いた。なぜあれだけ科目を広げられたのか。
山中:現在270を超える科目数がある。AIを始めこれからの情報社会、ではデジタル化した情報をただ使うのでなく、どのように使うかという力が問われている。多くの卒業生は企業や組織の中で働くことになるが、経済や経営、法律など、社会を支える仕組みはどうなっているのか。その基礎には哲学や歴史、音楽、あるいは人間の考え方、心理学など、人間としての普遍的なものがある。AI時代だからこそ人間として基本的な力として、知識や能力が必要になってくるので、そういう科目を入れていくと結果的に270を超えた。
―着実に入学者数を達成、2万人目標が視野に―
吉野:2年目で約7,000人のオンライン大学というのは画期的で、14,000人の大学という前代未聞の大学が実現し、しかも社会人でなく現役世代の大学進学、これは日本のリモート教育の世界の大事件と言っても良い。
山中:全入学者の内、高卒の入学者を中心とする25歳未満が8割、それ以外が2割。一般的な通信制の大学だと25歳未満が2割で、それ以外の社会人教育が8割というのが一般的なので、各方面で驚かれている。我々の原点であるN高校グループ出身者が5割くらいいる。大学開設2年目となる今年、初めてZEN大学単独での祭としての文化祭を、4月25日・26日の2日間、幕張メッセで行われたニコニコ超会議の中で開催した。通信制で会う機会が少ないので、リアルに出会える場を作ったところ大盛況だった。そうした場での交流に慣れているN高グループ出身者が中心となって雰囲気を作ってくれたので、学生も先生も大変喜んでくれた。
吉野:学生の出身地についてお聞きしたい。
山中:若者人口が多い大都市が多く、首都圏と大阪圏で半分を超える。基本的には若者の人口分布と似ている。ただ、北海道とN高等学校本校のある沖縄、S高等学校の茨城、R高等学校の群馬など、オンライン教育に慣れている地域は入学者が多い。社会人は10%から15%。外国籍の方はごく少数。日本語の授業なので、語学力がネックになっている。ただ、AI翻訳の革新が日進月歩なので、多言語をリアルタイムに変換していくシステムが出現してきている。そうなると全く違った大学の風景になって、海外からの学生も一気にハードルが下がる可能性がある。
吉野:ぜひそうなって欲しいと思う。私は旅が好きでアジアや中東に行くと、現地語のテレビのバラエティ番組を聞き流しているが、何を話しているのかさっぱりわからなかった。昨年末に中東行った時にChatGPTを試したら同時通訳に近い速さでかなり正確に翻訳してくれるので、大変驚いた。その時に大学やコンベンションで本格的に使える時代はそう遠くないと確信した。
ところで、ZEN大学のリモート授業はN高からのノウハウがかなり生きているように感じる。N高自体の生徒数がどんどん増えているのにも驚いた。
山中:現在N高・S高・R高のN高グループの生徒数は約36,000人、昨年から4000人増加している。学力試験という意味での入試はないが、今年は東大・京大が6人、早稲田・慶應が約90人、国公立大学は約200人、関関同立で約250人。世界大学ランキング100位以内の大学に80人以上が合格している。進学実績という面でも良い線行ってると自負している。
同じように、学力試験で選抜しないオンラインのZEN大学だからこそ多様な学生が自分のやりたいこと、関心のあることを学んでいく中で、本当の実力を身に付けていく事が出来ると思う。学生の「学びたい」を徹底的に引き出してサポートしていくのが最大のミッションだ。
―「地域、企業連携」がこれからの最大テーマ―
吉野:企業、地域連携は言うに易く実行は相当難しい。弊社の経験からしても今のインターン制度では企業側が本気で取り組めない。学生をお客さんとして預かって、レクチャーし、実務は手取り足取り教えていると与えられた1~2週間は終わってしまう。受入れ準備や結果報告もあるので、担当した人は仕事ができない。経済界でも議論は進んでいるがまだ、試行錯誤の段階だ。
山中:ZEN大学は、企業連携は単位なしにしている。単位を出すとなると科目の担当教員が、どういう形でインターンシップをやってもらうか、計画を立てて指導する。最終的に評価して単位をつける。教授がコントロールする。単位を出すためには、教える側の教員、大学の関与が入ってくる。そうではなく、単位はなしで、企業や団体等で働いて体験すること自体が重要であり、それにこそ意味がある。
吉野:単位なしは大変魅力的だ。ただ期間が問題で、まちづくりのコンサルタントの仕事は最低でも3か月出来れば半年はほしくて、教えたら仕事をして業務的にも成果を出してほしい、というのが本音だ。そうすればお互いにメリットがある。
山中:そんな形にできないか取組んでいきたい。ZEN大学ではまだ開学1年目だが、三条市商店街再生プロジェクトなどの地域連携プログラムを50件程度実施してしている。福岡商工会議所や横須賀商工会議所とも協定を結んで、起業支援や地域活性化プログラムを展開している。企業と連携した1か月のプログラムも行っている。3年生向けのインターンシップについては現在、関係機関や企業に説明にあがったり、説明会にも参加してPRしているところだ。大阪の経済団体や企業との連携もぜひ進めていきたいと思っている。地方自治体と組んだ「地域連携プログラム」にも取り組んでいる。1か月間、島や山に行って活動する、といったプログラムも人気だ。
吉野:都市との関係でいうと、川上量生さんの本でSFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)のリモート版を目指していると書かれていたが、現在は郊外で展開していた大学が都市に戻ってきている。郊外で隔離されたような状態で学ぶという形から、都市の中で様々なアクティビティやバイトの場所も多い都心に注目が集まっている。リアルに住んでいて授業はリモート。そこの土地とまったく無関係な授業を単に聞いているだけでなくて、都市との関係があれば違った関係性ができてくる。
山中:そこがまさに連携プログラムの核心だ。学生は首都圏が多いが、半分近くはそのほかの地域に住んでいる。地域連携プログラムは実際に2~3週間、1か月現場に行くこともある。6か月や1年となると学生にとっては移住のようなもので、今勤めているアルバイトを休めないといったような事もある。今後どのようにプログラムを開発していくかが今の大きな課題だ。
吉野:都市との関係は、リモートの問題もあるが、実際に現場を見て、そこの人たちと体験をともにする。それが一つの大きな目標になる。
山中:まさにオンライン大学だからこそ時間が自由で、自由に行ける。ただし大都市圏でのプログラムで問題になるのは宿泊料。ホテル代が高いので日本財団に一部助成してもらって、学生の負担を少なくしている。これらの仕組みはまさに試行錯誤の最中だが、必ず成功モデルが作れると考えている。
―世界と戦うオンライン大学をめざして―
吉野:日本の大学制度は日本語で受験して、卒業後は日本で仕事をしてもらうことが大前提。ところが世界の大学はその国で働くことを前提としない形がたくさん存在する。リモート系の大学はもっと自由な世界を横断している。英語の問題はあるとしても、世界と戦うために、次は世界へ打って出なければならない。今後の計画というか、どのように構想されているのか。
山中:一つは大学院。まずは4年制大学を完成させて、うまく動きだした中で、どこを伸ばしていくか。今の知能情報社会学部をそのまま大学院に持ってくるというのは違う。特色のある形で、ZEN大学ならではの分野を伸ばしていかなければと思っている。
研究面でも、例えば世界で初めてのコンテンツ産業史アーカイブ研究センター(HARC)を設置した。オーラル・ヒストリーで、アニメやゲームのほか、コスプレもヨーロッパを中心に人気があり、このような文化を学びたいのでればZEN大学にはトップクラスの教授陣もたくさんいる。数学では京大の望月新一先生の提唱したIUT(宇宙際タイヒミューラー)理論についての授業もある。日本財団の支援を受けて東京大学の松尾豊先生と連携した研究室「第二松尾研」が運営するHUMAI センター、鈴木寛先生の「ZEN大学すずかんゼミ」も人気だ。こういうところは世界へ打って出られる。
吉野:ZEN大学が持っている知の財産を世界に出していくことで、世界の学生がリモートで入ってくる世界が想像できる。オンラインを含めると世界から10万人以上の学生を集めるアリゾナ州立大学をモデルにされているが、これからの道筋はどうか。
山中:認可申請において当初の5,000人という入学定員を3,500人に縮小したが、教育の質は落としたくなかったので教授陣はそのままの体制で変えていない。当面の学生数の目標は2万人。規模がおおきくなるほど教育の質を高められる。まずは、世界的に通用する日本が持っている強みで世界へ打って出る。それは、ドワンゴやKADOKAWAが今までやってきた文化とつながっている。それと日本が持っているものをつないで、それを世界へつないでいく。日本と世界をつなぐ形を目指したい。
吉野:オンラインというAI社会でこそ可能となる日本発の大学としてZEN大学が世界のトップ大学と互角に戦って伸びていく事を期待します。
どうもありがとうございました。
了 文責事務局